05.bloodcross

最終章「喪失の楽園」

01.

side ???

 

遥か遠い昔。気の遠くなるような昔。『神』と呼ばれる者はある一族の者を沢山、殺した。

血に濡れた神の前に一人の少女が現れる。

黄金の腰まで長い髪に血のように美しい真紅の瞳。黒いワンピースに身を包んだ美しい少女。

手には刀を握り締めて彼女は神の前に立った。

 

『私は貴方を殺す』

 

声すらも美しい少女は凜とした気高い声音でハッキリ言い放った。手にしている刀の刃が美しい銀の光を放つ。

 

『私をただの吸血鬼と思わない事ね』

 

彼女を嘲笑っていた神は彼女に腕を斬られた。彼女は無表情で瞳には哀しみと怒りに満ちた光を宿している。

 

『命と引き換えにしてでも貴方を封印する!』

 

そう言って笑った彼女は自分の胸を刀で刺し貫いた。この世の『枠』を外れた存在は腕を斬ったところで何のダメージにならないと知っていた彼女は己の血を使い神を封印した。

彼女は封印術の行使で死んだが死ぬ前に彼女は笑って神に言う。

 

『もう一度、私と貴方は戦う。その時が貴方の最期よ』

 

彼女の最期の言葉を神は笑った。お前は死ぬじゃないか…どうやって戦う、と。しかし、時は巡って彼女の一族は力を取り戻して彼女の血縁者は時を経て数を増やしつつある。

まさか、今の状況なのだろうかと神は考えた。そして神はこれ以上、彼女の思い通りにするわけにもいかず、封印された復讐と共に一人の少年に囁いた。飢えと孤独に弱った少年は神の囁きに乗り、神をその力で呼んでしまう。

神は封印を少年に解き放たれ復讐を始める。そして神は一族の中で一番美しいと評されていた少年を愛した。

少年の名前は『神夜』。

神をその身体に受け入れた男もその少年を愛していたようだ。

しかし、少年の心はたった一人に向いたままだった。

 

そして、神と神を受け入れた男は封印された。男の子供に。

 

 

side 錐夜

 

「……っ!」

 

夜一族の里に続く山道を進んでいたエルトレス達の前に魔神が現れる。一体や二体の話では無い、おびただしい魔神の姿にエルトレスは男の姿である錐夜に変わり現れた魔神を斬る。

 

「斬り抜ける!」

 

刀を構えて錐夜は魔神を斬り進む。他の者達も武器を手にして魔神を斬り倒しながら山道を進んで行く。

 

そして、錐夜達は夜一族の里の入り口につく。


02.

side 錐夜

 

夜一族の里の入り口についた錐夜達は変わり果てた里を目にした。錐夜達が里を抜ける前はそこそこ花も咲き空気も澄んでいたのだ。

しかし、今は草木は枯れ黒い煙が里に蔓延している。これではいくら不老長寿の一族といえど身体に良くない。

 

「うう…」

 

錐夜達のいる場所からそう遠くない場所から呻き声が聞こえ、医師である刹夜が声がした方へと駆け寄る。

 

「おい、大丈夫か?って封印種じゃないか」

 

刹夜は封印種の少女の身体を抱き起こす。少女は顔は真っ白で苦しげに口を開く。

 

「…う…刹夜様…?」

「俺を知ってるのか?」

 

少女は瞑っていた目をあけ、視界に刹夜を入れると安堵した。刹夜はというと長い間、一族から追われていた為に少女が自分を知っている事に驚く。

 

「はい、小さな頃…私はとても病弱でしたのでよく刹夜様に診て頂いてました。えと、架夜(かや)と…申します。」

 

少女が名乗った事で刹夜は少女を思い出したらしい。

 

「架夜か!大きくなったな。」

 

刹夜が里を追われている間に美しく成長した少女…架夜に刹夜は嬉しそうに声をかける。あまり感情表現が上手くない架夜は頬を赤く染めて照れた。

 

「はい、お久しぶりです。刹夜様」

 

架夜はニコリと笑う。しかし、その微笑みに力は無く刹夜は心配そうに架夜を抱き上げると錐夜達のもとまで連れて来た。

 

「夜一族の架夜だ。…架夜、里に何が起きている」

 

刹夜は架夜を簡単に錐夜達(といっても里にいた夜一族は知っているのだが)に 架夜を紹介した。

架夜は錐夜達に会釈すると口をゆっくり開く。

 

「黒い煙が里に広がってから魔神と思わしき存在が里に集まり、封印種達は皆倒れて伏せっています。他の覚醒種や純血種にも体調を悪くする者もいて…」

 

架夜は話を続ける。

 

「…今の私には『先見』の力はありません。ですが、ずっと隠して来ました。月夜様の存在と…ごほっごほっ」

 

必死に訴えようとするが架夜は咳をし辛そうに目を瞑る。刹夜は錐夜達と見合い…。

 

「架夜、大体は解ってる。俺達は止めに来たんだ」

 

刹夜の腕の中にいる架夜の傍へ行き錐夜は架夜に語りかける。

架夜は瞼を開けて不安に揺らいだ瞳を見せた。

 

「俺と静輝が残って体調を崩している一族の者達を診る」

 

刹夜は錐夜に告げる。錐夜は頷いて静輝を見ると静輝はしっかりと頷く。医療の知識に長けており術力も戦闘力もある静輝なら任せられる。

 

「律、錐夜達を頼む」

「任せて」

 

戦闘力は静輝よりも遥かにある律に刹夜は錐夜達を頼めば、律は応じてくれた。

 

「治癒力のある私もここに残る」

 

そう言って前に獅奈希が出た。獅奈希はアーシェルを見て微笑む。

 

「ちゃんと守ってね。貴方の大切な人達を」

「解ってる」

 

獅奈希とアーシェルは会話をすると獅奈希は刹夜と静輝と共に伏せっている夜一族のもとへと向かった。

 

「行くぞ」

 

四人を見送った錐夜達の向かう場所は長の屋敷だ。


03.

side 錐夜

 

医療の知識に長けている刹夜と静輝、治癒力の高い獅奈希に弱った一族を任せて錐夜達は長の屋敷に向かった。

しかし、屋敷の目前で一人の青年が立ちはだかった。

肩につくぐらいの淡い水色の髪に真紅の瞳の美青年。光夜と結界の中で戦った青年 凜夜(りんや)だ。彼は先ほど刹夜に運ばれて行った架夜の弟。

 

「…しょーがないから残るよ。」

 

瞬時に鎌を出した光夜は鎌の柄を握り締め凜夜と対峙する。

 

「光夜さん」

 

錐夜が光夜を呼ぶと光夜は振り返らず錐夜達に背を向けたまま。

 

「ここの方がしーちゃんに何かあってもすぐに駆けつけられる。それにこっから先は真性封印種や死醒種が行った方がいい」

 

光夜は純血種だ。術を使い戦闘力に優れているが真性封印種や死醒種には適わない。

この先にいるのは白夜と神夜の二人の死醒種、月夜は真性純血種だ。純血種の能力では勝てないのは目に見えている。

 

「錐夜、あの馬鹿神夜を頼むよ。それと、必ず生きて戻って来い」

 

光夜はそれだけ恥ずかしそうに言った後、凜夜に向かって駆け出す。

凜夜も槍を構えて戦闘態勢に入る。

 

「行くぞ!」

 

皆を連れて錐夜も長の屋敷を目指して走り出す。視界の端でそれを見送った光夜はすぐに凜夜と激しい攻防をし合う。

 

(錐夜…ちゃんと戻って来い)

 

願った光夜は気を取り直し、凜夜に向かって鎌を振り下ろすが鎌の刃は凜夜の槍の柄に防がれ、弾かれる。

 

「…光夜さん、姉さんが人質になってるんです」

 

槍を光夜の鎌へと凜夜は振る、光夜は鎌で防ぐ。

 

「そんな事だろうと思ってたよ。架夜はもう占い師としての能力を失ってる。そして、月夜は占い師の能力を失った架夜を人質にして君を利用してる。違う?」

「当たってます」

 

鈍い金属音がぶつかり合う音を奏でる。光夜はわざと凜夜でも避けられる攻撃を仕掛ける。勿論、凜夜もそうだ。

 

「体力持つ?」

「甘く見ないで下さい」

「じゃ、続けるよ」

「どうぞ」

 

凜夜は架夜が笑っている世界が好きなのだろう。今、架夜は泣いている。だから、月夜が気に食わないのだ。

錐夜達が月夜と決着をつけるまで凜夜と光夜の攻防は続く。

両方が生き残るにはお互いの体力と速さに合わせなければいけないのだ。


04.

side 錐夜

 

錐夜達は長の屋敷を目指して走る。長の屋敷は里の奥にあり距離は遠くもあり近くもある。錐夜達は決して後ろを振り返らず、真っ直ぐ走る。

 

「!」

 

ドクン、と錐夜の心臓が高鳴って錐夜の腕が強く掴まれて引き寄せられる。

そして、錐夜がいた元の位置に黒く先が鋭く尖った黒い触手が地面を割り伸びる。まるで錐夜を狙っているかのように地面から出て来た触手に黒夜は刀で触手の上部を斬り落とす。

 

「…この触手は鈴だな」

 

小さく呟いた黒夜は片手で錐夜を抱き、もう片手で刀を構える。

 

「錐夜達は先に行って」

 

黒夜と錐夜に向かい合うように立ち、言い告げたのは律だった。

地面には亀裂が入り始め、地面を砕き割って先程と同じ触手が十数本と律の背後に現れる。

 

「…錐夜、ここから先はきっと厳しい戦いになる。でも、ちゃんと帰って来て」

 

光夜と律は錐夜の内に秘めた覚悟に気づいているのだろう。

いつも明るい笑顔の律が哀しげな微笑みを浮かべる。黒夜の腕の中の錐夜はどう返事をすれば良いのか戸惑う。

 

「みんなで笑える結末にしようね」

 

黙っている錐夜に優しい笑みを浮かべて律はそれだけ言うと黒い触手の群へと一人、走って行く。

 

「………」

 

黒い触手が律を敵とみなして律へと襲いかかる。複数の黒い触手が律を襲うが真性封印種の力を解放し、男の姿の律夜になって刀を振るえば触手は上部を斬り落とされる。

 

「行け!錐夜っ!」

 

律夜が叫べば錐夜達は走り出す。その姿を見届けて律夜は刀の柄を片手に握り締めて空いた片手でもう一振りの刀を鞘から抜き、刀を握り締める。

 

「容赦はしない。鈴」

 

短く吐き捨てるように律夜が言えば斬り捨てられて地面に落ちた黒い触手の上部がスライムのように地面を這う。

それは一カ所に集まり人の形を創り出す。

 

「破夜様の復活の為に」

 

破夜の部下である女性は夜一族には無い能力を使っている。律夜の想像が正しければ鈴は夜一族では無い『何か』に変わっている筈だ。

 

「鈴、影を操る能力は夜一族の誰しもが扱えない能力だ。夜一族は全てにおいて陽の属性にあたる。お前、陰の気の塊である魔神を取り込み今の能力を手に入れたな」

 

夜一族は名前とは対象的に一族三種全てが陽の気を持っており、陰の気は持っていない。影は裏側を意味している為、陰の気を持たねば扱えない。

夜一族である鈴が影を操っているのは異常な状態なのだ。

 

「夜一族の者が魔神を取り込む事がどういう事か解ってる筈だ!鈴!!」

 

妖艶に微笑む鈴に向かって律夜が二刀を振る。それが二人の戦いの合図だ。


05.

side 錐夜

 

「母さん」

 

朔夜が心配そうに先程残った律を思う。そんな朔夜の頭を鎖夜が撫でる。

 

「行くしかない。これで最後にしねーとな」

 

鎖夜の言葉に朔夜は頷く。

 

「約束通り」

 

長の屋敷への距離はあと僅か。しかし、突然聞こえた女性の声に錐夜達は再び、身構える。

 

「決着をつけましょう?姉様」

 

音もなく、錐夜達の前に現れたのはリースラートから愛する人を奪ったこの世で唯一人の妹ウィルシェ。

 

「ウィルシェ…」

 

リースラートは唯一の妹を見つめる。ウィルシェは花のように愛らしく、しかし、どこか棘がありそうな微笑みを浮かべる。

 

「姉様」

 

ウィルシェはリースラートを呼ぶ。

 

「錐夜、私はここに残る。」

 

リースラートは錐夜達より前に出て振り返らず言う。

 

「リース。でもお前は戦えない筈じゃ…」

 

恋人にかけられた呪いを救う引き換えにリースラートは戦う力を失っている。錐夜は焦ってリースラートを見るがリースラートは背を向けたままだ。

 

「大丈夫、私は負けない。すぐに追いつくから行って、錐夜」

 

リースラートはそれだけ言うとウィルシェの方へと歩く。

 

「錐夜さん、私がリースと残ります」

 

塚本がリースラートの方へ歩み寄り錐夜達に向かってそう告げた。

 

「大丈夫なのか?」

「はい」

「……解った」

 

苦しげに息を吐いて錐夜達は長の屋敷へと目指す。

その気配と音だけを聞いてリースラートは一度目を閉じると再び目を開けてウィルシェを真っ直ぐ見つめる。

 

「姉様、本当に久しぶりですわね。ちゃんとお話しするのは」

 

ウィルシェが愛らしく微笑む。

 

「まともに話しをするのはね」

 

愛らしく微笑む妹とは対象的にリースラートは怒っている。

怒りを込めた瞳と表情がリースラートの怒りを物語っている。

 

「…ふふ、姉様はそうでなくては」

 

楽しげにウィルシェは笑い、リースラートの懐へと瞬時に入る。

 

「……!」

 

驚き反応が遅れたリースラートの身体を抱き締めてウィルシェは微笑み、目を閉じる。

 

「姉様、愛してますわ」

 

ウィルシェの言葉と共にリースラートの身体から血が噴き出す。

刃物に小さく斬られたように薄い傷が数十ヶ所、傷から血が出る。

 

「あ……っ!」

 

綺麗な笑みを浮かべたまま、ウィルシェはリースラートの身体を離す。リースラートの身体は後ろへと倒れるが塚本がリースラートの身体を抱き締めて支える。

 

「さ、姉様…始めましょう…。二人の狂宴を」

 


06.

side 錐夜

 

錐夜達は夜一族を統べる長の屋敷に辿り着き、屋敷の中に足を踏み入れた。

 

「長の間に行けば白夜がいる。」

 

鎖夜は慣れた足取りで屋敷の中を歩く。長の間には白夜がいるであろう。勿論、敵に回るだろうと鎖夜は覚悟していた。

 

「………」

 

白夜という名前を聞いて朔夜は辛そうな表情を浮かべる。

 

「朔夜、大丈夫か?」

 

朔夜の気持ちを知っている錐夜が朔夜に声をかける。朔夜は必死に平静を装うが哀しげに揺れる瞳では誰も誤魔化せない。

 

「ごめん、錐夜」

 

小さく謝り朔夜は「早く行こう」と錐夜達を促す。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

長の間に足を踏み入れた錐夜達。長の間はかなり広く畳が敷き詰められている。そして奥には扉。

あの扉から地下へ行ける筈だ。

錐夜も何回かここを訪れているから知っている。

 

「来たか」

 

普段は髪を一つに束ねている白夜が髪をおろして刀を手に立っている。白銀の美しい髪と金色の瞳。

冷たさを感じさせる美貌が無表情のまま錐夜達を見つめた。

 

「白夜兄様」

 

朔夜が白夜の名前を紡ぐ。鎖夜も無言だが複雑そうに苦笑いを浮かべている。

 

「……久しぶりだな。宵夜」

 

形の良い白夜の唇が紡ぐ言葉は朔夜(宵夜)に向けられた。

 

「やはり、戦わねばいけませんか?」

 

朔夜とて解っている。戦わねば先にいけない事は…。しかし、それでも白夜と戦いたくは無い。

 

「私には一族を背負う義務がある。……言葉は止そう、宵夜」

 

白夜の刀の柄を握る力が強くなる。鋭い金の瞳は真っ直ぐに錐夜達を射抜く。

 

「ここから先は通さない!」

 

白夜が刀を薙払うように振る。風圧が鋭い刃のように錐夜達を駆け抜けた。

風圧によって錐夜達の身体に小さな傷が出来る。

 

「く……!」

 

頬に一直線の小さな傷が出来た錐夜は悔しさから眉を寄せる。

 

「はあっ!」

 

朔夜が錐夜達の間を駆け抜けて白夜の刀に刀をぶつける。ギイン!と金属音が鳴って朔夜と白夜は互いに刀をぶつけ合う。

朔夜の意図に気づいた錐夜は皆を連れて地下へと続く扉へと向かい辿り着くが扉は開かない。

 

「開かない!」

 

錐夜は焦る。残った皆は錐夜達を先に行かせるべく戦っている。

早く、月夜のいる場所へ辿り着かねば…。

 

「開け、禁断の扉よ」

 

低くよく通る鎖夜の声が扉に向けて紡がれる。己の血がついた鎖夜の指で扉に触れば扉は独りでに開く。

 

「俺はここに残る。後は頼む、錐夜」

 

扉の向こうへと足を踏み入れた錐夜達に入り口で立ち、鎖夜はそう言うと笑った。

錐夜は鎖夜に向かって頷くと扉の向こうへ走って行った。それを見送った鎖夜は煙草をくわえて火をつける。

 

「さて、行くか」

 

鎖夜は煙草を口にくわえたまま白夜の方へ走り出す。


07.

side 錐夜

 

長の間から扉を通って錐夜達は階段を降りて地下へと向かう。仲間達が残ってくれたが今は錐夜、アーシェル、桜夜、神音、珠皇、瑠璃、天河、黒夜で地下へと向かっている状態だ。

 

「!」

 

おそらく地下からであろう。長い階段の下から魔神が錐夜達に向かって来る。

刀の柄を手にした錐夜は跳び、魔神を宙で、刀で素早く斬り伏せる。

錐夜はそのまま、地下まで降りて着地する。

 

「………」

 

錐夜は立ち上がって刀の柄を手にしたまま前方にいる人物を睨みつけた。

 

「君も月夜様の邪魔をするの?」

 

腰まで流れている美しい金と銀に煌めく髪、死醒種の金色の目。

中性的で美しい顔立ち。変わってしまった先代の長…錐夜にとっては実の父親である神夜は生気の無い瞳で錐夜を見つめている。

 

「錐夜!」

 

階段から黒夜達がおりてくる。地下の部屋は部屋というより岩の洞窟ような場所だ。岩の壁に平らに整えられた岩の床。

 

「……神夜」

 

変わってしまった神夜を見て黒夜は辛そうに視線を逸らした。

 

「瑠璃の神子姫。その命頂く!」

 

神夜は生贄として探していた瑠璃を見つけ手にした刀の切っ先を瑠璃に向けて突進する。

 

「瑠璃!!」

 

錐夜が瑠璃を救おうと駆け出す。

 

「……っ!」

「く!」

 

瑠璃の前に立ち、神音とアーシェルが神夜の刀を刀で防ぐ。ギリギリと刀が擦れ合う音が響く。

 

「邪魔をするな!」

 

美しい金色の瞳が更に光り、神夜は神音とアーシェルを見えない力で吹き飛ばす。神音とアーシェルは吹き飛び、壁に叩きつけられる。

頑丈な岩で出来た壁に亀裂が入るほどに強い力で叩きつけられた二人はずるり、と岩に倒れた。

 

「………」

 

愛しい人を腕に抱き締めた天河は目の前に立つ神夜を見つめる。

瑠璃は天河の腕の中で怯え、震えている。

 

「二人から離れろっ!」

 

錐夜が神夜と二人の間に割って入り、刀を神夜に向かって振るう。

神夜は易々と錐夜の刀を刀で受け止める。そして、錐夜の刀を弾き返した神夜は手にしていた刀で錐夜を斬ろうと高く掲げ、一気に振り下ろす。

 

「貴方の相手はその子じゃないわ」

 

錐夜とアーシェルの耳には会いたかった人の声が聞こえた。驚愕に目を見開いた錐夜が神夜の腕を掴む少女を見つめた。

錐夜の視線に気づいた少女は錐夜に向かって優しく微笑む。

 

「母上……」

 

震える唇から錐夜はやっと言葉を紡ぐ事が出来た。


08.

side リースラート

 

出血と痛みで揺らぐ意識の中で笑うウィルシェの顔が見える。

大切な最後の肉親で、ウィルシェはリースラートの妹だった。母は早くに戦いで死に、母の死がショック過ぎて父は哀しみから母によく似たリースラートばかりを可愛がりウィルシェを疎外した。

それが原因もあってウィルシェとリースラートの仲はこじれている。

 

(私は大切だったよ、ウィルシェ)

 

ぼんやりと視界が霞む。リースラートは目を閉じる。

 

「諦めますか?姉様」

 

ウィルシェが鈴を転がしたように軽やかに笑う。

 

(諦める?)

 

目を閉じて言葉を呟く。

 

(何を諦めろと言うの?)

 

諦めてなんかいなかった。ウィルシェと姉妹に戻ること。シルヴァリスを助けること。錐夜達と一緒にいること。

 

(諦めて…ない)

 

先ほどつけられた身体中の切り傷がピリリと痛む。けれど、構わない。

支えてくれる塚本の腕から抜けてリースラートは真っ直ぐにウィルシェを見つめる。

 

「姉様のその瞳がとても好き。だけど、私は」

 

ウィルシェが笑う。

 

「それ以上に姉様が憎いの」

 

そのウィルシェの言葉が合図となり、ウィルシェの見えない力がリースラートを地面に縫いつける。

そして、ウィルシェは力で作り出した五本の剣をリースラートに向ける。

ウィルシェは宙に浮き、指を鳴らす。

リースラートに向けられた剣は真っ直ぐにリースラートを狙って飛ぶ。

 

「私は…神戒種の」

 

力が身体に溢れる。きっと、リースラートの力が完全に戻ったのだろう。

拳を握り締めて剣を睨みつける。

 

「リースラートよ!!」

 

身体の中にある力を繊細なコントロールで剣へ飛ばす。剣は真っ二つに折れてリースラートその内の折れていない剣を掴み取り、ウィルシェへと走る。

 

「……姉様……」

 

泣きそうなウィルシェの微笑み。

リースラートは顔を苦しげに歪めてウィルシェの方へと走る。

 

(これが、私の想いだよ!)

 

剣の持ち手を変えてリースラートは手にした剣の切っ先を自分に向けた。

ウィルシェの戸惑う表情が視界に映る。

 

「…………っ!」

 

肉を裂く音が辺りに響く。血が地面に飛び散る。痛みで頭までガンガンに痛むがリースラートは立つ。

自分で肩に刺した剣の柄に力を込めて抜く。

また血が地面に飛び散る。

人外でなければ唯では済まない傷だ。

 

「姉様……」

 

ウィルシェの震えた声がリースラートの耳に届く。


09.

side リースラート

 

「ウィルシェ…私は…あなたとの絆を断ちたくない!」

 

結果は良くなかったが今は亡き両親は確かにリースラートとウィルシェの誕生を喜んでいた。

生まれてはならない子供達だったとしても。

 

「私もあなたも生を受けて産まれて来た。だから、私はウィルシェとの縁を結んでいたいの」

 

血だらけの衣服のまま、ウィルシェをリースラートは抱き締めた。

ウィルシェはリースラートから愛する人を奪った。けれど、姉妹として生を二人は受けたのだ。憎み合うのは悲しいとリースラートは答えを出した。

 

「ごめんなさい、姉様」

 

頬に涙が伝いウィルシェは目を瞑り、力で作り出した剣の柄を手に握り締めてリースラートの背中に切っ先を向ける。

 

「それでも、私は姉様を許せないの!!」

 

ウィルシェの剣の切っ先はリースラートの背中を突こうとする。それでもリースラートはウィルシェを離さなかった。

 

「リース!!」

 

塚本の声がリースラートを呼び、瞬間にリースラートとウィルシェの間に小さな光が現れて発光し、リースラートとウィルシェを引き離す。

リースラートは力無く地面に倒れそうになるが塚本が支える。

 

「塚本さん…」

「残念だけど私は攻撃型の術が使えないからこれが精一杯だ」

 

どうやら、リースラートをウィルシェから離れさせたあの光は塚本の術らしい。

 

「ありがとうございます。」

 

リースラートは塚本に礼を言い、立ち上がろうとしたが度重なる出血で立つ事が出来ない。

態勢を立て直したウィルシェが両手から光の玉を数発、リースラートと塚本に向けて放つ。

 

「く…!『円の領域に入ることなかれ!』」

 

塚本は自分とリースラートを囲むように呪符を数枚突き刺し、呪を唱える。

塚本の呪によって紫色の結界が現れて、ウィルシェの放った光の玉は結界にぶつかり消えた。

 

「高い能力の防御術をお持ちのようですが…」

 

ふふ、と可憐な笑みを浮かべてウィルシェは再び、宙に浮く。

 

「果たしてどこまで耐えられますか?」

 

一般的に使用されているサッカーボールと同じ大きさの光の玉が数え切れない程、ウィルシェの傍に浮いて現れる。

光の玉は一斉にリースラートと塚本に向かって放たれる。

 

「!!」

 

光の玉は丸かった姿を飛んでいる最中に変える。ボールのように丸かった姿は楕円になり、先端が鋭い刃になる。

受ければ大怪我、場所が悪ければ死すら有り得る。

 

「通さない!『守護壁・絶対領域』!!」

 

塚本は声を張り上げて結界強化をする。バアアァン!と轟音をたてて結界に光の玉が次々とぶつかる。

張られた結界と光の玉がぶつかる衝撃で塚本は態勢を崩す。

 

「やめてっ!!ウィルシェ!!」

 

自分はいくらだって傷つけられても構わないが他者を傷つけるのは許せず、リースラートは塚本の結界から飛び出す。

 

「姉様と私は所詮、相容れない存在よ!生きたくば私を殺しなさい、姉様!」

 

ウィルシェは剣の柄を手に握り締めてリースラートの懐を狙い、宙より突進してくる。

 

「どうして…。ウィルシェ!!」

 

リースラートの悲痛な叫びが辺りに響く。もう、すぐそこまでウィルシェの刃は迫っていた。


10.

side リースラート

 

この世に生を受けたウィルシェと私。

私はお姉ちゃんでウィルシェは私の妹。

大切な私の妹。

ちゃんと守りたかったんだよ。

 

『人殺しっ!!』

 

『彼』に言われた言葉。

知っていた。私は両親の犯した大罪を知っていたからウィルシェの耳を塞いで、ずっとその言葉を受け入れていた。

私はウィルシェを守っていたつもりで自己満足していただけで。お父さんが私ばかり気にかけたあの頃も。

私はウィルシェに頼る事が出来なかった臆病者でウィルシェの哀しみをわかってあげられなかった卑怯者。

ごめんなさい、ウィルシェ。

ごめんなさい…

 

ウィルシェがリースラートに向けた刃はリースラートの心臓を貫く事は出来なかった。

 

「あ………」

 

リースラートが小さく声を出す。

銀色の髪が目の前にある。大きくて愛しい背中。

けれど、その背中は血に濡れていた。

 

「シル…ヴァリス…」

 

震える声でリースラートは目の前で自分の代わりにウィルシェの刃に貫かれている恋人の名前を呼んだ。

 

「……ずっと知っていた……」

 

絞るように出された声。呪いが蝕む身体なのにシルヴァリスは来たのだ。

 

「……リース…と…ウィルの『想い』を……」

 

シルヴァリスのかすれた声から紡がれる言葉にウィルシェは目を見開く。

 

「喋らないで!シルヴァリス!」

 

振り切るように走り、リースラートはシルヴァリスの身体を支える。

リースラートはシルヴァリスの血だらけの身体を抱き締めた。

 

「…今から…でも、遅く…ないから」

 

シルヴァリスの唇から血が零れる。絞るように吐き出された言葉にリースラートはシルヴァリスの身体を抱き締める。

 

「姉様…シルヴァリス様…」

 

シルヴァリスの血で濡れた剣を手にしてウィルシェは佇んでいた。

 

「……ウィルシェ。」

 

リースラートがウィルシェを呼ぶ。

 

「私はずっとウィルシェの傷つけて来た。真実を知らせず、ウィルシェを救う事も出来ずに」

 

禁忌を犯した両親の子供。真実を知らず、誰かの責めに晒されて来たウィルシェ。母を亡くした父親から愛されず孤独だったウィルシェ。

不安定な足下に乗りかかる孤独はウィルシェを歪ませるには充分だったのだから。

 

「でも、ウィルシェ。あなたがシルヴァリスに呪いをかけても私はあなたを『妹』だと信じてる」

 

腕の中のシルヴァリスの息がどんどん薄くなっていく。ごめんなさい、とリースラートは心の中でシルヴァリスに謝った。

きっとシルヴァリスの呪いを解くには術者であるウィルシェの命が必要になる。

それだけ、重い呪いなのだ。

けれども…。

 

(ごめんなさい、エルトレス)

 

一緒に生きよう、と約束したけれどそれは無理みたいだ。

 

「諦めが悪いのよ、今でも」

 

腕の中のシルヴァリスを地面に横たわらせる。リースラートは彼の胸に両手を向けた。

 

「最後に、なんてしないから」

 

欲張りな自分は大切な人達を諦めきれない。リースラートは苦笑いを浮かべて両手に神戒種としての力を込めた。


11.

side 律

 

ひらり、ひらりと桜が宙を踊っては地面に落ちる。その繰り返しを見守っていた律に声をかけてきた一人の青年。

最初は細い縁(ふち)の眼鏡が似合ってて理知的に感じた律を前にして青年の放った一言は…。

 

「お前、女に見えねえな」

 

確かに少年に見間違われるのは律にはよくある事だがそれでも初対面の者に使う一言じゃないだろ、と律もまた初対面の青年に対して怒りをぶつけた。

お互いはまだ礼儀も知らない子供で初対面同士なのに二人して罵り合った。

それが律と刹夜の始まりだった。

 

(まさか、喧嘩友達だと思ってた刹夜の子供を産む事になるなんてね)

 

鈴と外で戦っていた律は空き家に激突し崩れた家の瓦礫に埋もれていた。自分の上に乗っかってる家の瓦礫を退かしながら律は過去を振り返って小さく笑う。

全く、未来なんてどうなるか解らないものだ。喧嘩友達で一生続くと思っていたのにいつの間にか刹夜は『男』になっていた。

 

(そして私が絆された事が一番の計算違いだったかしら)

 

計算では喧嘩友達だ。だが、律と刹夜は互いに好き合って、産まれた宵夜は表現しきれない程に愛おしくて。

 

「母は強いのよ」

 

だから、負けるつもりは毛頭無いと自分の上に乗っていた瓦礫を蹴り飛ばして襲いかかる黒い触手の群に挑む。

 

「『金の鐘を打ち鳴らし、荒々しくも鳴り響く音(ね)よ。今生天牙の弓を引き、一条の矢を打ち込め!』」

 

律の呪文が唱え終わると金色の矢が触手に向かって飛び、矢は触手の上部を落としていく。

 

「真性封印種め…。やはり、厄介ね」

 

鈴は触手の群の奥深くに立ち、どうやって律を追い詰めようか思案する。

能ある鷹は爪を隠す、というわけか…噂に聞く律の実力とはかけ離れた実力に鈴も悩む。

 

「ふふ、厄介でしょう?」

 

律はいたずらな笑みを零して高く跳躍し、向かって来る触手を軽やかに避けて鈴へと近づく。

 

「…!影よ、私を守りなさい!」

 

鈴が叫ぶ。影の触手が鈴を守るように律の前に立ちはだかる。跳躍から降下しながら律は呪を唱えた。

 

「『永遠(とわ)に紡ぐ調べを奏でて、十二の星に祈りなさい。過ぎゆく時間(とき)、来たる時間(とき)、全ての祝福を我に!!』」

 

律と黒い触手がぶつかる。瞬く暇も無く、白い光が広範囲に爆発して鈴も律も触手の群さえも巻き込む。


12.

side 律

 

「………」

 

あの術は威力は高いが暫く、爆発の光で暫くは目が視えなくなる欠点がある。ふわふわと宙に浮いてる感覚があるが背中に回った腕と抱えられた足の感じからすると誰かが律を抱きかかえているのだと律は思った。

別に刹夜を期待しているわけではない。

 

(別に…刹夜だとは思ってないんだから)

 

律は目を瞑る。どの道、暫く経たないと目は見えない。

 

「律」

 

声が降って来る。聞き慣れた声に律はぴくり、と眉を上げる。

期待していたわけではない。

 

「鈴は?」

 

目が視えない状態では何も確認出来ない。律は自分を抱えているであろう刹夜に聞く。

 

「死んだよ。魔神を取り込んだアイツに『陽属性』の術は死神の鎌だ。しかし、律、あの術は威力は高いが術者も危険に晒される」

 

刹夜の言葉を律は黙って聞いた。

 

「俺が助けなかったらお前もあの爆発に巻き込まれていた!」

 

刹夜の声は律を責めているわけでは無い。

心底、自分を心配してくれてるのだろうと律は視えない目で手探りで、刹夜の服を掴む。

 

「鈴も全力だった。魔神を取り込むリスクも承知の上で全力だった。だから、私も全力でぶつかろうと思ったの。」

 

段々、目が視えるようになって来る。黒かった視界がぼやけ始めてうっすら刹夜の顔が見える。

 

「律…」

 

泣きそうな刹夜の顔を見て律は笑った。何で泣いてるの?なんて聞かなくても解る。

 

「ごめんなさい、刹夜。譲れない事が私にもあるのよ」

 

魔神を取り込んだ者の末路は一つしかない。人格を魔神に飲まれて理性の無い本能のみで動く獣になり果てるだけ。

現在、封印種の血でも魔神を取り込んだ者を治療する事は不可能だ。

陽に属する者が陰を受け入れる事は禁忌。罰だと言うように何の治療も効果は無い。

 

(鈴…)

 

律ははっきりと見えるようになった目で現状を見た。爆発に巻き込まれた瓦礫が黒い煙を空に向かって放ち、面影すら残らない黒い塊と化している。

 

「夜一族が持てない力を、鈴は持ってしまった対価といえるだろうな。」

 

刹夜がそう言って目を瞑る。律は風に吹かれて舞い上がる黒い灰を見つめた。

 

「鈴も破夜の為に全力だった。…本当にどこから一族は狂っていたのかしら」

 

破夜と月夜が出逢った時から?華月が死んだ時?翡翠が真性封印種に目覚めた時?核が産まれた時?否、夜一族の運命はもっと前から狂っていたのだ。

 

「あの子達…大丈夫かしら」

 

長の屋敷に向かった錐夜達を案じて律は小さな声で呟く。

 

「信じるしか、ないだろうな。お前は消耗してて動けないし俺は一族を診ないとならない」

 

刹夜は長の屋敷の方を見て息をつく。

全員、無事に戻って来てくれる事を祈るばかりだ。


13.

side 宵夜

 

それは今より少し前の事だった。

 

「白夜と美月が婚約した」

 

鎖夜兄から聞かされた話に戸惑った。大好きな白夜兄様に奥さんが出来る。

それは、固い石で頭を殴られたような錯覚さえ感じるショックだった。

 

「兄様が…」

 

密やかに淡い想いを寄せていた人が結婚するんだ。

…暫く、兄様の顔が見たくなかったのを今でも覚えてる。

 

「宵夜、美味しい茶菓子が手に入ったのだが…」

「いらない!!」

 

落ち込む僕を慰めようと兄様が茶の誘いをしてくれたのに僕は断ってしまった。その時の兄様の表情は今でも覚えてる。

 

鈍い音が長の間に響き渡る。ぶつけた拳を刀で弾かれた鎖夜は後方に跳躍する。しかし、白夜は素早く術を唱えて鎖夜を追撃する。

死醒種は覚醒種以上の戦闘力と高い術力を持つ、戦闘になれば非常に厄介だ。

 

「『白き光を身に纏いし乙女よ。白聖光神の加護を我らに与えたまえ』」

 

鎖夜に向けられた術の追撃を宵夜の光の壁の術が防ぐ。

 

「…宵…」

 

白夜が呟くと宵夜はピクリと肩を震わせた。切なげな白夜の表情に宵夜は後ずさる。

 

「兄様…」

 

宵夜の中の戦意が消え始める。それに気づいた鎖夜は宵夜の肩を掴み、自分の後ろにやる。

 

「兄上…!」

 

咎めるように白夜は鎖夜を睨む。そんな白夜の態度に鎖夜は苦笑いを浮かべた。

昔からそうだった。我が儘も言わず、何をするにも自己主張をしない白夜は宵夜の事だけは、自分の傍に置きたがり宵夜に他の者をなるべく近づけさせなかった。

 

「お前なー‥、何で何時もそうなんだ」

 

呆れて鎖夜は白夜を見るが白夜の視線は鎖夜の手が宵夜の肩を掴んでいる方に向けられている。

 

「…お前と俺は今は『敵』だ。宵夜を守る為に俺を行かせたのはお前だろ」

 

鎖夜の言葉に白夜は顔を伏せた。錐夜達が失敗すれば夜一族は厳しい状況に立たされる。一族を守るために白夜は月夜側についたのだ。

本当は誰よりも宵夜と錐夜達に味方したいのは白夜。だけど、長の立場ではそれが出来ない。

だから、宵夜を守るために最も信頼している鎖夜を行かせた。

 

「解っています、兄上」

 

白夜は息をついて刀を構えなおす。鎖夜もまた構えた。

 

「そうです。白夜様」

 

美しい凜とした声が宵夜の背後から聞こえる。素早く振り返った宵夜は防御の術を唱える。

瞬間、爆発し宵夜の防御術で張った術の壁はガラスが砕けたような音をたてて崩され、宵夜は吹っ飛ぶ。

鎖夜が素早い動きで宵夜を抱きとめる。

 

「美月……!」

 

白夜は婚約者の名前を呟く。

美月はただ、宵夜だけを睨みつけていた。


14.

side 宵夜

 

美しく、けれどもどこか冷たい瞳を細めて白夜の婚約者である美月は宵夜を見据えている。

そして、宵夜と鎖夜の方へと歩む美月は無表情だが氷のように美しい。

 

「………」

 

拳を握り締めて宵夜は立ち上がる。

美月の白夜への『恋慕』は宵夜も知っている。宵夜も白夜に『秘めた想い』を抱いているから、これは美月と宵夜の譲れない戦いだ。

 

「宵夜」

「鎖夜兄。手は出さないでください」

 

宵夜は地面を蹴り、美月へと向かって走る。美月も宵夜を迎え撃つ為に術を唱える構えに入った。

 

(僕も白夜兄様が好き)

 

それは抱いても祝福されない淡い想い。夜一族は封印種から進化した真性封印種の存在を恐れていた。

男にも女にも変わる摂理を覆した存在。真性封印種は迫害される運命を避けられない。

現に里に幽閉されていたエルトレスは数え切れない程に暗殺されかけている。

だから、宵夜はずっと隠していたのだ。

自分の白夜への愛情を。

 

(真性封印種の生きる道は茨の道)

 

真性封印種に限らずとも生きとし生ける全ての命の人生は茨の道はつきものだ、と宵夜の母親である律が笑って言い放った事がある。

どうせ、茨の道ならもっと茨を増やしてやればいいとも。

 

(僕は兄様と一緒にいたい!)

 

誰よりも近くにいたいと想う心は強くなるばかりで諦める事など出来ない。

宵夜は美月の放った光弾を防御術で防ぐ。

 

「私は…白夜様をお慕いしております!」

 

美月が宵夜に向かって声を上げる。美月の表情は美しく、そして恋に身を置く女性の顔だった。

 

「この想いは貴女にも負けません!!」

 

冷たい光を放つ銀色の刃。美月は手にした刀の柄を握り締めて宵夜に向かって行く。

刀の刃は真っ直ぐに宵夜の心臓を貫こうとしている。

 

「はあっ!」

 

気合いの声を上げて宵夜は拳を放つ。パキィン!と綺麗な音をたてて刀の刃は宵夜の拳に割られる。

 

「…僕はずっと見守っていくだけにしようと思ってた。兄様への想いを隠して生きていけば何時か忘れられると思ってた。」

 

傍にいたい痛みに耐えて隠していけば忘れられると思っていた。でも、違った。

忘れられる事など出来なかった。

 

どうせなら足掻いてから忘れなさい。

 

宵夜の想いを見透かしていた律が綺麗に笑って言った。その言葉を言った律の顔は母親ではなく一人の女性としての顔だった。

 

「負けません。僕も兄様が好きです!」

 

言い切った宵夜に一番、驚いていたのは白夜だった。そんな白夜を見て鎖夜は小さく笑う。


15.

side 錐夜

 

サラリと背中に流れる翡翠色の美しい髪。凜とした強い光を持つ真紅の瞳。

 

「貴方の相手は私よ」

 

神夜の腕を掴んだ少女が強く言い放つ。神夜も自分の腕を掴む少女から目が離せずにいた。

 

「……翡翠……」

 

黒夜が少女を見て呟いた名前。それは錐夜の実の母親の名前で神夜の腕を掴む少女の名前。

彼女が『翡翠』なのだ。

 

「………」

 

神夜は無言で翡翠を見つめる。何か言いたげに口を開くが言葉を飲み込む。

翡翠は真剣な表情で神夜を見つめ、掴んでいる神夜の腕を離す。

 

「母上」

 

ずっと逢いたかった母親を目にして錐夜が翡翠を呼ぶ。

 

「錐夜、…破夜を復活させてはいけないの」

 

小さな爆発が神夜と翡翠の間で起こる。立ち込めた煙から脱出した翡翠は素早く錐夜の前に立ち、防御術を唱えて結界を張る。

煙に紛れて翡翠に向かって飛んで来た数本の光の刃は翡翠の結界に阻まれる。

 

「…母上。」

 

母はどんな想いでいるのだろう、と錐夜は翡翠の背中を見つめる。破夜は翡翠の血を分けた実の父親だ。

 

「止めなきゃいけないの。それが真性封印種…断罪の血を受け継ぐ者の使命」

 

強い意志を持つ翡翠の言葉。それを聞き錐夜は顔を俯かせる。

 

(俺達の使命)

 

心の中で唱える。一瞬だけ錐夜の意識が薄らぎ、白昼夢のように脳裏に映像が浮かぶ。

金色の長い髪、背を向けた少女が刀の柄を握り締めている。

 

(私達の使命)

 

錐夜の頭の中で誰かが呟く。脳裏に浮かんだ映像は消え、白昼夢から現実に戻された錐夜は軽い頭痛を感じるが頭を振る。

 

「錐夜、大丈夫か?」

 

黒夜が錐夜の傍に駆け寄って来る。

神音は珠皇に抱え起こされ、アーシェルを桜夜が支える。

翡翠と神夜が激しい術の攻防戦を繰り広げている中で状況は覆された。

 

「やっぱり、邪魔だなあ」

 

突然、響いた声。洞窟内のような地下の部屋に響いた声に翡翠と黒夜が反応する。

桜夜は苦しげに表情を歪めた。

 

「月夜」

 

美しい銀色の髪、真紅の瞳。神々しいまでに整った美貌。現れた月夜の姿を見て黒夜が小さく呟く。

 

(月夜…)

 

時折見る白昼夢で姿を見た事は何回もあるが錐夜は月夜本人を初めて見た。

地下の奥から現れた月夜は歪んだ笑みを見せて神夜と翡翠の方へと歩み寄る。

 

「君はいつも邪魔ばかりするね。翡翠」

「当然でしょう?解ってるくせに」

 

月夜と翡翠が互いを睨みつけながら会話をする。

 

「相変わらずだね。」

 

ふぅ…と大げさに溜め息をついて月夜は肩をすくめる。

そして、月夜は目を細めて錐夜達を見つめた。

 

「へぇ…見かけない同胞がいるね」

 

神音、桜夜、アーシェルを指している言葉なのだろう。三人をじろじろと見て月夜は笑みを崩さず神夜の方を向く。

 

「シエル、解っているね?」

「はい、月夜様」

 

月夜の言葉に頷いた神夜が手を錐夜達に向ける。

 

「…っ!」

 

まさか、と錐夜が動くよりも早く、神夜の手から爆発的な力が放たれる。

その力はとてつもない光と共に爆発し、錐夜達全員が爆発に巻き込まれた。


16.

vision 月夜

 

燃えるような赤い夕日が沈む。

外の長椅子に座りながら空を見つめて溜め息をつく。

毎日続く日々が憂鬱だ。友達はいない、両親もいない。

いつも孤独で身体だけを愛してくれる奴はいた。

そんな子供時代。

 

「お菓子食べるか?」

 

突然、目の前に差し出された白くてふわふわな食べ物。包みからほんの少しだけ顔を出している食べ物からはほんのりと柔らかい甘い香りが漂っている。

 

「誰、きみ」

 

差し出された好意に慣れてなかったからお菓子を差し出した子供をつい、睨みつけてしまった。

 

「誰でも良いだろう。お菓子食べろ」

 

翡翠色のおかっぱ頭の小さな子供はもう一つ持っていたのか、強引に隣に座って来た。

何だ、コイツ。

 

「どうせ、毒でも入ってるんだろ。」

「疲れた身体によく効く毒なら入ってるぞ」

 

は?何を言ってるんだ。このガキは。

まさか、華月の子供の翡翠だと知らずに僕はお菓子を食べる子供を見た。

 

「何て顔をしている。毒といえど身体に良い毒だ」

 

僕の視線に気づいた子供はそう言って僕の手に乗っていたお菓子を取り上げる。

 

「いらないなら食べてやる」

 

いたずらな笑みを浮かべて子供が視線だけ僕に向けて口を開ける。

不思議かな、そうされると食べたくなってしまうのが子供で僕は結局、子供から奪ってお菓子を口に入れた。

 

「美味しい」

 

口に広がる甘さはしつこくなくてふわふわの生地はすぐに溶けてしまった。

初めて食べた美味しいお菓子に思わず本音が口から出てしまい僕は慌てる。

 

「そうだろ。母様の作るお菓子は美味しいぞ」

 

自信満々に笑う子供の顔を見て僕は羨ましいと感じた。この子供はとても愛されている。

それがとても羨ましかった。

親の愛を得られなかった僕は子供の笑顔が眩しすぎた。

だから、気づけなかった。

何度も華月と翡翠は僕に手を伸ばしてくれてた事に。僕がもっと素直になれてたら、未来を信じていたらこんな結末にはならなかったんだ。

妬んで、憎んで、傷つけて。

それが何の意味にもならない事に気づくのに僕は遅過ぎた。

 

(気づいていたら翡翠とシエルをちゃんと祝福出来たのに)

 

だから、僕も託そうと思う。

未来に生きる命を『君』に。

 


17.

side 錐夜

 

誰かの記憶を、夢に見た。あれはきっと月夜の記憶なのだろう。

神夜の攻撃で吹き飛ばされた錐夜は意識を失っていたらしく錐夜は目を開けて倒れていた上体を起こして辺りを見回す。

 

「………っ」

 

吹き飛ばされた錐夜達を守るように前に立ち、防御術を使っていた翡翠が片膝をつく。

錐夜は翡翠のもとへとすぐに向かう。

他の仲間達も皆、倒れているが今はそちらへ気を回せなかった。

 

「母上!」

 

錐夜は翡翠の傍に駆けつけて翡翠の身体を支える。

息を切らし肩を上下して翡翠は呼吸を整える。

 

「大丈夫?錐夜」

 

翡翠が錐夜と顔を向き合わせる。翡翠の額から汗が流れ落ちているのを見て錐夜は翡翠が自分達を助けてくれたのだと理解した。

 

「母上」

「錐夜、神夜は私が抑える。だから月夜を」

 

しかし、死醒種である神夜の強力な力が再び放たれる。しかし、神夜の力は翡翠と錐夜は向かわず神夜の放った光の玉は真っ直ぐ、瑠璃と天河に向かう。

 

「瑠璃!天河!」

 

錐夜はすぐに翡翠を地面に座らせて瑠璃と天河の方へと走る。

 

「無理だよ」

 

言って笑った月夜は錐夜を背後から捕らえる。腕を掴まれ、月夜の方へ引き寄せられた錐夜は見ている事しか出来ない。

 

「離せっ!」

 

必死に抵抗するが腕を掴む月夜の力が強く錐夜は絶望した

間に合わない、と。

光の玉は真っ直ぐ、二人へと向かう。

 

「瑠璃!!天河!!」

 

錐夜は瑠璃と天河に向かって叫ぶ。

 

「       」

 

耳元で月夜が錐夜に囁いた。錐夜は月夜の言葉に驚き月夜を見る。

月夜は小さく笑う。

 

「月夜…違う未来があった筈だ。なのにどうしてだ…」

 

錐夜は渾身の力で腕を捕らえていた月夜の腕から逃れて瑠璃と天河へと走る。

ずっと月夜に手を伸ばしていた華月と翡翠。手を取れなかった月夜。

 

(悲しい結末にさせたくない。それで最後にしたくない。)

 

手を伸ばす。もう少しで瑠璃と天河に届くと錐夜は必死に走る。

しかし、運命は皮肉にも悲しみばかりを呼んでしまう。

 

「瑠璃っ!!!」

 

錐夜の悲痛な叫びが地下に響き渡る。


18.

side 錐夜

 

血が地面に落ちる。

 

「瑠璃…」

 

目を開けた天河が小さく呟く。その声音は驚きと哀しみに満ちていた。

 

「天河…」

 

瑠璃の声が地下に響く。瑠璃は自分の血に濡れた手で天河の頬を撫でる。

そして、血を吐いた瑠璃の身体は天河の腕の中に倒れた。

神夜の放った光の玉は瑠璃の胸を貫いていた。目を閉じて天河の腕の中に倒れた瑠璃を抱いて天河は俯く。

 

「神夜っ!月夜っ!」

 

咎めるように翡翠が声を上げる。翡翠の声に月夜が笑う。それはどことなく哀しみに満ちた瞳だった。

 

「まだ、間に合うよ。翡翠」

 

月夜は小さく言う。まるで囁くように。月夜の言葉を聞いて真っ先に動いたのは神音だった。

 

「瑠璃の手当てをします。珠皇」

 

起き上がっていた神音は珠皇を連れて走り、天河から瑠璃を預かる。

神音は瑠璃を抱き、神音から悠木へと姿を変える。

恐らく、悠木の方が術に長けているのだろう。悠木は自分の手を刀で切りつけ、血を瑠璃の口へと流し込む。

 

「『月読の加護を横たわりし者に』」

 

悠木は手を瑠璃の出血している胸元におき術を唱える。淡い光が瑠璃の傷口に吸い込まれていく。

血を触媒にした術ならば治癒力が高い。しかし、傷の場所が問題だ。恐らく心臓に穴が空いてる。

心臓が傷つけばどんな種族であっても命取りだ。

陰陽師である珠皇は悠木と同じく術を唱えて瑠璃の手当てをしている。この場に医療能力の高い静輝がいればちゃんとした治癒が出来るのだが…。

 

「っ!三人の護衛は俺がする!気をつけろ!」

 

先ほどの神夜の攻撃から意識を取り戻した桜夜が立ち上がり、刀の柄を手にして叫ぶ。

 

「…瑠璃の血は手に入った…か。残念だったね、翡翠。瑠璃の大量の血さえ手に入れば儀式は完成するんだよ」

 

月夜はそう言って笑った。瑠璃の流した血がある場所に吸い込まれるように流れていく。

 

「まさか……」

 

翡翠が瑠璃の血が流れていく場所を見つめて呟く。

煌めきを放つ水晶、中で眠る人物。

 

「破夜…!」

 

錐夜が目を細めて水晶を睨む。アーシェルも同様に水晶を睨みつけている。

黒夜は俯き、桜夜は顔を逸らす。

 

「さあ、最後の戦いを始めよう」

 

月夜の高らかな宣言と共に水晶が瑠璃の血を取り込み、水晶に亀裂が入る。


19.

side 錐夜

 

「うあああぁぁ!!」

 

瑠璃が傷ついた事に激しい憎しみにかられた天河は剣の柄を握り締めて神夜へと突進する。

 

「天河っ…!」

 

錐夜はすぐさま、天河と神夜の間を目指して走る。神夜も天河も止めなければいけない。

 

「お前達さえっ…!いなければ!!」

 

天河の叫びが哀しく響き渡る。天河の手にした剣の刃は真っ直ぐ神夜の喉を狙い、神夜は手に力を込め始めた。

 

(やめてくれ)

(その人は)

(俺の―‥)

 

涙が頬を伝う。拭う気は無かった。

鈍い音が辺りに響く。地面に血が飛び散る。

 

「……お前っ……」

 

天河が驚愕の表情を浮かべる。神夜も天河に攻撃しようとしていた手をさげた。

神夜と天河の間に割って入った錐夜は天河の剣を肩に受けたのだ。苦痛に表情を歪ませながらも錐夜は肩から剣の刃を抜く。

 

「何で庇うんだよ…!」

 

悲痛な訴えを天河は錐夜にぶつける。天河の訴えに錐夜は静かに答える。

 

「この人は俺とアーシェルの父親なんだ」

 

錐夜の答えに天河は目を見開いた。初めから知っていたであろう桜夜と黒夜は顔を俯かせ、翡翠は真っ直ぐに神夜を見つめている。

 

(錐夜……)

 

アーシェルは拳をつくり握り締めた。

 

「…錐夜…アーシェル…翡翠…」

 

親子と名乗れなくても錐夜と幾度も手を繋いだ。自分の子だと知らずともとても愛しかった。

神夜の中で幼い時の錐夜とあの日の記憶が蘇る。自分が欲しかった家族がここにある。守るべき家族が…。

 

「神夜っ!」

 

翡翠が呼んでいる、と神夜は光の宿った瞳で顔を上げて微笑んだ。

 

「ごめんネ、錐ちゃん」

 

神夜は手を伸ばして錐夜の身体を抱き締める。これが欲しかった家族の温もりだとようやく感じる事が出来た。

 

「遅いんです。全部終わったら母上に殴られて下さい」

「うん、全部終わったら皆をギュッてしたいネ」

「聞いてます?人の話」

 

さすがは人の話しを聞かないで有名な神夜だ。錐夜は少々、呆れながらも自我を取り戻した神夜を見て嬉しそうに笑う。

 

「神夜」

「ただいマ、翠。元気な子産んでくれてありがとう」

「…まずそれか」

「?全部終わったらアーシェルをぎゅうぎゅうしたいナア」

 

錐夜を離した神夜は近くまで駆け寄って来た黒夜に錐夜を預けて翡翠とアーシェルの傍に行く。

「ぎゅうぎゅうしたい」と言われたアーシェルは引きつった表情を浮かべていたが満更でも無いらしい。

 

「神夜。戦いはまだこれからだよ」

 

成り行きを見守っていた月夜が言い放つ。月夜の背後には瑠璃の血を吸った水晶が割れ始めている。


20.

side 錐夜

 

破夜が閉じ込められている水晶に亀裂が入り続ける。水晶の中に閉じ込められた破夜の身体には神が封じられている。

全てを狂わした神。

 

(…う)

 

ドクン、と心臓が大きく脈打つ。錐夜は自分の胸元に手をあてて膝をついた。

 

「大丈夫か?錐夜」

 

心配そうに…否、心の底から錐夜を心配している黒夜は錐夜を抱き締めて割れ始めた水晶を見た。

水晶に閉じ込められているのは黒夜が仕えていた人物。

 

「月夜」

 

神夜は月夜を見つめる。

 

「解っている、神夜。」

 

顔を見れば解る。神夜が何を言いたいのか…。もう止まらない。

だから、この道を選んだ。

 

『救われて良いの。あなたも』

 

自分が手にかけた少女はそう言って笑って逝った。だが、月夜は救われるつもりは無い。

 

「ほう、懐かしき顔ぶれだな」

 

低い声が辺りに響いた後、パキィン!と綺麗な音をたてて水晶が割れる。

割れた水晶の中から艶やかな紺色の髪と真紅の瞳、涼やかな美貌の美丈夫が現れた。

 

「……破夜」

 

神夜は目を細める。翡翠は目を見開き、現れた破夜を見つめた。

 

「あれが…俺達の…」

 

翡翠の身体を支えていたアーシェルが呟く。破夜はアーシェルと錐夜にとって祖父にあたる。

 

「……破夜……」

 

桜夜は現れた破夜を見つめて顔を俯かせ、拳を強く握り締めた。

 

「久しいな、翡翠」

 

口の端を歪めて破夜は翡翠を見る。翡翠を隠そうとアーシェルと神夜が前に立つ。

 

「シエル、退け」

 

破夜が神夜に言うが神夜は首を横に振り、強い意志を持った瞳で破夜を見た。

 

「私は家族を守ります」

 

そう言い放った神夜の瞳に迷いは無く、破夜は息をつくと腰に差していた刀を鞘から抜く。刀の刃が銀の光を放つ。

 

「我は神を宿している」

 

刀を構えて破夜は笑う。刀に強い力が集まる。

 

「お前達に死を約束しよう」

 

低い破夜の声が辺りに響き渡る。

ぎり…と強く拳を握り締めて唇を噛み締めた桜夜が破夜を睨みつけ、走る。


21.

side 静輝

初めから全部知っていた。華月様の直属の部下であった律に仕えた時に全てを知らされていた。

エルトレスの両親の事、神を身体に宿してしまった破夜の事も。

 

「私、先を視る力を失いました」

 

夜一族の里には人間社会と同じように病院みたいな建物がある。木造で古びてはいるが二階建てでそこそこ広い。

診察室や医療関係の本が収められた部屋もある。

管理は刹夜と静輝が行っていた。夜一族の里で唯一の医者で名医と謳われた刹夜は里から追われた立場であっても人望がある。体調が回復した架夜は光夜に気絶させられて今は寝台の上に横たわっている凜夜の看病をしながら独り言のように言う。

静輝は黙って他の者の治療をする。

 

「本の少し前にあなたは生きなさいって夢で声がして目が覚めたら力は消えてました」

 

どんな種族であれ、未来を視る力を持つ者は死ぬ運命にある。未来を視る力の代償だろうか。神音であり悠木でもある彼女の母親の癒音も未来を視る力があった。

律に聞けば癒音は月夜が殺したらしい。

 

『癒音は身ごもっていた腹を斬られたらしいの』

 

癒音のお腹にいたのはおそらく、神音だ。しかし、神音は生きている。

 

「静輝さんは癒音さんという方をご存知ですか?」

 

架夜の口から呟かれ癒音という名前に静輝は目を見開き架夜を見た。

 

「架夜さん、どちらでその名前を…」

 

架夜が小さな頃から癒音は夜一族の普通の封印種と周囲に認識され、癒音の未来を視る力はごく一部の者しか知らなかった。

静輝はズレた眼鏡をかけ直す。

 

「夢の中で出て来た方が癒音と名乗っていたので」

 

架夜はそれだけ言うと俯き、凜夜の手当てを再開する。

 

「架夜の先見の能力を失った原因は…癒音が原因だと思うわ」

 

引き戸式の扉を開けて現れたのは刹夜に抱えられた律だ。静輝は律と刹夜を見た。

 

「律さん…」

 

静輝が律を呼ぶと律はニコリと微笑み、刹夜の腕から離れて静輝の傍に座り込む。

体力が回復していない律を刹夜が支える。

 

「癒音は先見の能力を忌み嫌っていた。その能力がある限り先見の能力者の未来は死しかないから」

 

律は言葉を続ける。

 

「だから、生きている架夜の先見の能力を消したんだと思う。」

 

癒音には見えていたのだろう、架夜はこの戦いで死ぬ筈の存在だった。

気づいていた律は敢えてその事は言わずに伏せておく。

 

「ところで静輝、今から私は錐夜達のところに行くわ」

 

「あなたはどうするの?」と律は静輝に向かって言うと静輝は微笑む。

 

「勿論、行きます」

 

力強く頷き、静輝は立ち上がる。

倒れた者達は刹夜に任せたいと静輝が刹夜を見れば…。

 

「行ってこい」

「行っておいで、しーちゃん」

 

刹夜と光夜が静輝に向かって行く事を許してくれた。

静輝は「行ってきます」と呟いて先に行った律の後を追う。


22.

side 錐夜

 

雷(いかずち)が辺りに走る。雷が走った後、その場所は黒く焦げつき一目で雷の恐怖を語る。

 

「お前達に死を約束しよう」

 

破夜は口の端を吊り上げて皮肉めいた笑みを浮かべ、刀を高く上げれば刀身に強力な雷が宿る。

 

(危険だ…!)

 

破夜の刀に集まる力は徐々に増幅し始めている。あんな力をまともに喰らえば命の保証は無いだろう。

 

「…頼んだよ、神夜」

 

小さな呟きが錐夜の耳に届く。どうやら、錐夜以外には聞こえなかったその声を発したのは……月夜。

 

「差し伸べてくれた、二人の手を…もう、裏切りたくないんだ」

 

破夜を睨みつけた月夜が腰に差していた刀を鞘から抜く。冷たい銀の光を放つ刀を構えて月夜は破夜へと突進して行く。

 

「やはり、裏切るか。月夜」

 

上げていた刀を破夜は勢いよく振り下ろす。莫大なエネルギーを持った雷は地面を走り月夜へと向かう。

 

「死は恐れない!もう誰も裏切らない!!」

 

月夜の叫びが辺りに響く。

 

(止めろ!月夜!)

 

雷に向かっていく月夜を止めようと錐夜が走る前にふわり、と桜色の長い髪が錐夜の視界を遮った。

 

「月夜!!」

 

美しい女性の声とともに轟音が響き渡る。ズガアアァァン!と雷が落ちたかのような轟音がした後、辺りは黒い煙が立ち込めた。

 

「え………?」

 

翡翠が目を見開き驚いている。神夜も同様の反応をみせていた。

黒い煙の中、月夜を抱き締めて座り込む一人の女性を見て錐夜も手で口を覆う。

 

「……華月」

 

月夜は目を見開き、女性の名を呼ぶと頬に触れる。

女性…華月は優しく微笑み、強く月夜を抱き締めた。

 

「みんな、ごめんなさい」

 

華月はそう謝った後、破夜を睨みつけた。

 

「破夜、許さないわ!邪神の甘言に騙されて数多の者を傷つけた罪を知りなさい!」

 

死んだ筈の華月を前にして、破夜は一瞬だけ驚いていたがすぐにニヤリと笑う。

 

「お前に何が出来るのだ。華月」

 

尚も破夜の言葉は続く。

 

「私は神を宿しているのだぞ」

 

無限にある神の力。破夜はそれを示すが如く、辺りに細い雷を走らせる。

錐夜は刀の柄を握り締めて破夜を見つめた。

 

命をかける覚悟はしている。


23.

side エルトレス

 

「お前は……あなたは、もう」

 

刀の柄を強く握り締める。錐夜の姿は華奢な少女…エルトレスへと変わり、俯いていたエルトレスは顔を上げて刀を手にして走り出す。

細い稲光がエルトレスへと向かうがエルトレスは刀で薙ぐ。

 

「私があなたを眠らせる!破夜っ!!」

 

背中に宿る刻印が警告し続けていた。

決して良い神では無い神を破夜は宿してしまったのだ。遠い昔、夜一族を滅ぼしかけた神。

当時、『最初』の真性封印種が神を封印した。その真性封印種の名前はエルーシェ。

背中に赤い十字架を最初に背負った彼女は命と引き換えにして神を封印した。

 

(だから、あなたを殺すのは)

 

刀の柄を強く握り締めて走り続ける。

 

「く…小娘が!」

 

破夜が刀を振り下ろし強い雷撃がエルトレスに襲いかかる。

 

(私の役目…!)

 

雷撃を斬り裂いてエルトレスは破夜の肩を刺し貫く。

生々しい肉の感触が刀身から伝わるがエルトレスは破夜を睨みつけたまま刀の柄から手を離さない。

 

「エルトレス!!」

 

駆けつけたのだろう、静輝と宵夜、律がエルトレスの名前を呼ぶ。

 

「…破夜…」

 

強い意志を秘めた真紅の瞳が真っ直ぐ破夜を捉える。

 

「私はあなたを殺した罪を背負う。」

 

柄に力を込めたエルトレスは破夜の肩から刀を抜き、破夜の心臓に狙いを定めて刀を突き立てようとした。

 

「小娘がっ…!」

 

破夜はエルトレスが刀を抜いた際にエルトレスの首を片手で掴み、締め上げる。

憎しみと殺意に満ちた力を首に込められて締め上げられるエルトレスは僅かに眉を寄せた。

 

「私は…!今度こそあなたを止める!」

 

刀の柄を握り締めた手は決して力を失わず、エルトレスは目を見開き下から刀で破夜の腕に突き刺す。

腕に走った強烈な痛みで破夜はエルトレスの首を締め上げていたのを離し、エルトレスは地面に着地し刀を手にしたまま立っている。

その姿は神を封印したエルーシェとよく似ており、破夜の中に宿った神が恐怖に震える。

 

(まさか、この娘は……!)

 

破夜は迎え討とうと刀を手に握り締める。

 

「これで最期にする!!」

 

刀を構えたエルトレスは破夜に向かって走り、突進する。


24.

side 華月(過去)

 

「破夜。それで…いいの?」

 

ぽつり、と畳の上に涙が落ちる。

 

「決めていた…事なんだ。それが葉月との約束だから」

 

少女の力無い身体を抱き寄せた破夜は華月に背を向けている。泣き顔を華月に見せない為だろう。

いつまで経っても華月は破夜と越えられない境界線があった。

 

「ごめん、華月」

「謝らないで…解ってたから」

 

破夜が抱き締める少女。若葉のようにいつまでも純粋で澄んでいた彼女は破夜に全てを託し静かに息を引き取った。

 

「気持ちに応えられなかった…」

「ごめん、華月」

 

安らかな表情を浮かべて覚めない眠りについている葉月。

愛しそうに葉月を抱き締める破夜。

 

「解ってたから、いいの」

 

 

 

 

side エルトレス(現代)

 

雷が地面を走る。腕や足、身体のいたるところが細い雷に撃たれるが構わずエルトレスは刀を構えて突き進む。

 

「小娘っ!!」

 

破夜は己の身に宿した神の強大な力をエルトレスに向けて放出する。

黒く深い闇の力がエルトレスに向かって放出されるがエルトレスは構わず闇に突っ込む。

 

「っ…!」

 

闇に入ったエルトレスを呑み込もうと闇はエルトレスを押し潰そうと圧力をかけてくる。

 

「負ける…わけにはいかない!」

 

ここで負けるわけにはいかない。

ここまで来るのに沢山の人が悲しみの犠牲になったのだ。月夜も神夜も翡翠も…沢山の人が悲しみの犠牲になってようやくここまで来れた。

 

『ありがとう、エルちゃん』

 

優しい少女の声がエルトレスの耳に届き、誰かがエルトレスの背中に手の平をあてる。

 

『翡翠を…よろしくね』

 

次は先ほどの声とは違う聞き覚えのある女性の声がエルトレスの耳に聞こえ、エルトレスの肩に手が置かれる。

 

「……!」

 

エルトレスの身体が軽くなる。エルトレスは自分の手と背中にあてられた誰かの手が気になり背後を見ようと振り返ろうとしたが…。

肩に置かれた手と背中にあてられた手のひらがエルトレスを押した。

 

『神音を…みんなを…頼むわね』

 

その声の主の名前をエルトレスが言う前に、エルトレスは闇から抜け出した。

 

(…ありがとうございます…)

 

闇から抜けたエルトレスは振り返る事をせずに破夜に向かって走る。

沢山の悲しみをこれ以上、産むわけにはいかない。

 

「終わりよ!」

 

エルトレスの叫びが辺りに響く。

血潮吹く音がし、刀の刃に血が流れる。

 

「…小娘っ…」

 

破夜の苦しげな声がエルトレスの耳に聞こえる。エルトレスの刀は破夜の胸を貫いていた。

 

「……私と一緒に逝くのよ」

 


25.

side エルトレス

 

「天よ、地よ」

「エルトレス!!」

 

呪文の詠唱を始めたエルトレスに向かって神夜が叫ぶ。

しかし、エルトレスは目を閉じて唇に笑みを残したまま、呪文を唱える。

 

「遍く世界の真理の」

「だめっ…!エルトレス!」

 

呪文を唱えるエルトレスを止めようと宵夜はエルトレスの傍へ行こうとしたが…。

 

「駄目よ、宵夜」

 

宵夜は律に制された。何故なのかと母を問い詰めようと宵夜は律を見たが…律の頬に涙が伝うのを見て宵夜は何も言えなくなった。

 

「核の意志に私達は逆らえないの。解るでしょう?宵夜」

 

エルトレスが今、何を望んでいるのか。律に悟され宵夜はキツく目を閉じて唇を開く。

 

「我…に問い、全てを…正常なる…」

 

震える声で宵夜は呪文を唱える。エルトレスは破夜を抑えたまま、破夜の中に宿る神を道連れにするつもりだ。

封印では無く、完全に自分諸共、消滅させるべく…。

その術はエルトレス一人では決して唱える事は出来ない。破夜に宿っている神が抵抗しているからだ。

 

「時間(とき)へと」

 

エルトレス以外の真性封印種が呪文を唱える。

月夜はその場に膝をつき、神夜は悔しげに唇を噛む。

 

「戻したまえ!!」

 

エルトレスが声を上げると同時にエルトレスの手から強い光が放たれる。白く眩い光はエルトレスと破夜を包み込む。

 

「エルト!!」

 

光に包まれるエルトレスを見て黒夜は叫び、光に包まれるエルトレスの後を追う。

 

「黒夜っ!」

 

月夜の止めるような声がしたが黒夜は構わず、エルトレスの後を追って自ら光の中に飛び込んだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

白い光に包まれたエルトレスはゆっくり目を閉じた。

 

「ありがとう、エル」

 

暖かい、誰かの温もりがエルトレスを包む。

 

「……お祖父…ちゃん?」

 

エルトレスは目を瞑ったまま誰かの腕の中で呟く。

肯定の答えは返って来なかったが声と温もりはどこか懐かしくて…エルトレスの瞳から零れ落ちた涙が頬を伝う。

 

「これでようやく、約束を果たせるよ」

 

エルトレスは目を開けて彼の顔を見ようとしたが彼はエルトレスを勢いよく突き放した。

それまで浮いていた感覚があったのにエルトレスは突き放された瞬間、下へと落下する。

 

「お祖父ちゃ…」

「幸せになりなさい。エル」

 

彼の顔が見えない。けれど身体は重力に従って下へと落ちていく。

 

「エル……!」

 

最愛の人の声がエルトレスを呼ぶ。エルトレスの瞳から再び涙が零れ落ち、涙が宙に浮いて弾けて消える。


26.

side エルトレス

 

「エルトレス…」

 

落下していたエルトレスの身体を抱き留めて黒夜は向かい合う形でエルトレスを強く抱き締めた。

 

「師匠……!」

 

エルトレスは黒夜を見つめる。追って来てくれるとは思ってなかった。

 

「愛している、エルトレス」

「私も永遠に…師匠を愛しています」

 

白い光の中でエルトレスと黒夜は互いに唇を重ねる。

深く重なった唇が離れないように…。

 

神は破夜の中に宿ったまま、破夜と共に消滅した。

太古に夜一族を壊滅にまで追い込んだ神は血に濡れすぎて邪神と化しエルーシェによって封印され、そして月夜が封印を解く。

邪神は全て計画通りになっていたと思っていたのだ。だが、未来を視た少女と女性によって邪神の計画は全て邪神を消滅する運命へと導かれていたのだ。

彼女達の命と引き換えに。

月夜の苦しみも神夜の傷も決して癒えない。翡翠の涙も華月の悲しみも癒える事は無い。

けれど、ようやく春が訪れて朝を迎える事が出来る。

破夜の願いは果たされ、夜一族に平和が訪れる。

桜が一番綺麗に咲く丘に並んで立つ3つの墓石。それぞれ名前が彫られており、墓石には常に花が飾られている。

 

「馬鹿野郎……!」

 

桜色の髪を揺らして桜夜は涙を流して墓石の前に佇む。

手に握られた白い花が風に揺れて花びらを空へと飛ばす。

 

「華月…」

 

月夜はそっと桜夜の肩を抱き寄せる。春が訪れて桜が咲き誇り、楽園のように里を彩っても…。

 

大切な人達は失ったままなのだ。


27.

epilogue

 

「もう、起きて大丈夫なのか?」

「うん。大丈夫です」

 

黒い艶やかな長い髪を背中に流し、着流しを着た美しい青年 黒夜は夜具を敷いて上体を起こした金髪の少女エルトレスに水を渡す。

湯のみに淹れられた水を受け取りエルトレスは一口呑む。

 

「瑠璃さんは?」

「悠木と師奈希の治療のおかげで動けるまで回復したようだ」

「良かった…」

 

金髪のエルトレスは安堵の息をはき、黒夜はエルトレスにエルトレス用に持って来た着物をエルトレスの肩にかけてやる。

 

「俺はお前の方が心配だった」

「……え?」

「あのまま…消滅してしまうと」

 

あの時、確かにエルトレスは消滅しかけていた。だが、あの時…

 

「お祖父ちゃんが助けてくれたんです」

「破夜様が…」

「幸せになりなさいって…」

 

思い出せば今でも瞳に涙が浮かぶ。白い消滅の光に包まれたエルトレスは消滅せずに黒夜と共に現世へと帰って来た。

大がかりな術を使ったせいと今までの怪我で身体の限界だったらしくエルトレスはそのまま意識を失い、1ヶ月眠ったままだった。

エルトレスが目覚めた当初、皆は祭り騒ぎで喜んでくれたのだ。

 

「エルトレス…」

「はい?」

「結婚し」

「お父さんは認めてないカラネー!」

 

黒夜のプロポーズを遮って神夜は障子を開けて現れた。神夜の背後にはアーシェルもいる。

 

「エルちゃんはお父さんのお嫁さんになるんダカラ!」

「翡翠はどうした」

「勿論、翠は永遠のスイートハニーだヨ!」

「………」

 

神夜の無茶苦茶ぶりに呆れて何も言わなくなった黒夜。エルトレスは嬉しそうに笑う。

失った人達はあまりに大きく、もう二度と逢えないけれど…。

破夜の微笑みも、癒音の優しさも葉月の想いも変わらずにある。

エルトレス達が生きている限り。

 

 

(幸せになります)

 

エルトレスは開け放たれた障子から空を見る。

 

これが自分達を守ってくれた人達が願った平穏な世界…。

 

巡り、再び出逢える時がいつかきっと来るだろう。

 

その時まで精一杯、生きよう。

 

彼らの想いと共に…。

 

Blood†Cross END


(C)2008-2020 shisuha sakaki

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